「従業員専用口」の向こう側 ー 浅野知子

 

アタイは流しの仲居。

 

初めての仲居経験は学生の頃。
諸々の重圧と劣等感にもがいた
ほろ苦い想い出の数々。
「早く終われっ」と毎日思っていたのに
まさかその後も
各地を流すことになるなんて…。

 

仲居業初の勤務先は
伊豆の人里から離れた山奥。
そこは大昔に指名手配犯が
仲居として身を隠していたそうで、
内務係のおじさんが
「そん時はすごかったよ~。
ヘリコプターがバラバラ飛んじゃってさ!」
と、嬉々として話してくれたのを
覚えています。

 

でも、私にとってそこはすでに監獄。
指名手配犯に自分を重ね合わせ…
ていたわけではありませんが、
それだけその場所は陸の孤島、
閉鎖的な環境だったのです。

 

初出勤した時のこと。
初めて見る旅館の裏側は、
表の華やかさに反して薄暗く、
中抜けの時間なのか
従業員もさほどおらず閑散としていました。

 

細長く蛇行する通路に
「ヒロコ」「フジコ」「トミエ」等、
名前の書かれたL字台車の
マイカーが散らばり、
両脇に天井まで収納された食器や小物。
くたびれた従業員食堂。

 

裏動線は迷路のような複雑さで、
最後まで全貌がいまいちつかめないほど。
飾り気がなくあか抜けない、
でも漂う昭和感が
どこか懐かしいような雰囲気でした。

 

「従業員専用口」の扉の向こう側に
こんな泥臭いダンジョン
(↑言ってみたかった)、
いわば、外界から遮断された
山奥の異世界…素敵!

 

なんて能天気にわくわくしたのも束の間、
そこに暗躍するモンスターに
泣かされる日々がはじまったのです。

〜次回へ続く〜

 

 

2017年07月18日 | Posted in 余談Lab, 2足のわらじーズ | | No Comments » 

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