瞳の色が変わる人 ー 髙羽千佳

 

 

 

原稿を書き始めた当初、
(もう20年も前のこと!)
私は全く文章が書けなかった。

 

編集長に原稿を差し出し
チェックしてもらう。
原稿を前にすると、
編集長の瞳は研ぎ澄まされて
キンキンに輝き、野性味を帯びる。
ついさっきまで、
腕組みをしてデスクに足を投げ出し
コックリコックリしていたくせに!

 

赤字で真っ赤に染まった原稿は突き返され、
同時に辛辣な言葉を浴びせられた。

「箸にも棒にも引っかからない」

「最低の原稿だ!」

そして、極めつけが

「お前の文章を読んでいると、
 虫唾が走るんだよっ」

 

虫唾が走るって…。

 

いろんな言葉を受け止めてきたけれど、
さすがにこれはこたえた。
今なら、立派なパワハラだ。
普通に生きていたら、ほとんどの人が
言われることはないだろう

 

あの時の編集長の目の色、
編集部の淀んだ空気。
今でもしっかりと覚えている。

 

でもだからといって、
編集長との関係が最悪だったわけではない。

お酒を酌み交わしながら、
世界を股に掛けて取材した話、
その他数々の武勇伝、
そして、笑いを交えた
とっておきの失敗談を聞くのが好きだった。

 

私が親元から離れて暮らしていたことと、
お嬢さんと年齢が近かったせいもあり、
いろいろと心配もしてもらった。
本気で怒られたし、
本気で遊んでもくれたのだ。

 

会社を辞めて転職してからも、
時々一緒に飲みに行った。
年を取っても、人生の先輩には
元気でいてほしい。

 

「人は、いくつになっても
 1日、5分でも10分でもいいから
 本気になる時間が必要」

いつもそう言っていたっけ。

 

本気になると瞳の色が変わる人。
あの瞳の色を、
今、また見てみたい気がする。

 

 


▼アンサーfromながい


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