伝えること ー 石黒隆康

 

家を建てることは、
何もないところからのスタートです。
住まい手と設計者が

「イメージを共有する事が
出来るか出来ないか」

が大きな分かれ道だと感じます。

 

特に我々のように
個人で設計事務所を運営している設計者は、
モデルハウスやショールームが
ある訳ではないので、なかなか実物を
体感してもらう事ができません。

 

まずは、住まい手の要望に沿って
図面を作ります。
分かりやすい図面はどうしたら良いのか?
色を付けてみたり、
わざわざ手描きにしてみたり、
いまだに試行錯誤しています。

 

模型を作ることもあります。
特殊な敷地だったら、
敷地周辺の建物や環境を含めて
作り込むこともありますし、
建物自体が難しければ、
室内の細かい所まで作り込む事もあります。

 

設計に際して自分が考えていることを
住まい手に伝えるための手段です。

「こうしたいんだけど分かって下さいね」
「こんな間取りで生活に不具合はないですよね」

などなど。

 

完成してから

「こんなハズじゃなかった」

と言われることのないように、
頑張って色んな方法を考えています。

 

少し特殊なケースを
紹介してみたいと思います。
数年前、目の不自由なご夫婦の家を
設計する機会がありました。

 

ご主人は少しだけ見ることができますが、
奥さんは全盲でした。
それぞれのパートナーである
盲導犬と暮らす家です。

 

「中庭形式の間取りにしたい」

とか

「2匹の犬の世話が
楽に出来るようにしたい」

とか、幾つかのリクエストをもらって
設計がスタートしました。

 

さて、どうやって間取りを伝えよう?
キッチンのシンクの位置や
収納のレイアウトは
どうやって説明をすれば良いのだろうか?
ちゃんと伝える事は出来るんだろうか?

 

不安な気持ちもあったのですが、
毎回、打合せには
模型を準備して臨みました。

 

間取りの話し合いをするときには
2.5次元の模型を作りました。
壁の位置や窓の位置が分かるように
床から少しだけ壁を立ち上げて、
指でなぞることで間取りを
理解してもらったのです。

 

 

ご主人の想像力や理解力は
私の想定を越えており、
その場で的確に把握されているようでした。
キッチンや洗面室のシンクの位置や
棚の位置についても、
その都度模型で確認してもらいました。

 

次の打合せまでには
奥さんとも共有出来ていて、
次のステップ、また次のステップと
進んで行くことが出来ました。

 

もちろん、
通常の打合せ回数よりも多いですし、
時間も掛かりましたが、
無事に完成して
喜んでもらう事ができました。
伝える事の努力が報われた気がして、
とても嬉しい仕事でした。

 


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