財布を盗まれないように ー 渡邉知樹

 

前回はシベリア鉄道の話を書きましたが、
今回は1人でヨーロッパを旅した時のこと。

 

2ヶ月間の滞在中
「ユーレイルパス」という、
いわゆる青春18きっぷみたいな
チケットを使って、
電車を乗り継ぎヨーロッパの様々な国へ。

 

フランス、スペイン、イタリア、
ハンガリー、オーストリア、チェコ、
ドイツ、オランダ…。

 

携帯電話はおろか
「地球の歩き方」も持っておらず、
英語もろくに話せない。
クレジットカードも無ければ、
現金も全く余裕の無い、
とにかくなにもかもが心細い旅。

 

大きな駅について、そこから宿を探す。
電車の到着時刻が遅いと、
もはや野宿かと思うことも
何度かあったけど、
結果的にはいろんな人に声をかけて
どうにか寝床に辿り着いた。

 

まだ日本を出発する前、
みんなに旅の話をすると、決まって

「財布やカバンを盗まれないようにしろよ」

と言われた。
実際旅の間で知り合った
日本人のほとんどが
財布を盗まれていたことを考えれば、
それはまっとうな脅しである。

 

ところがぼくは旅をしている間、
とにかく財布を盗まれないことを
意識するあまり

「ヨーロッパを旅しながら
財布を盗まれずに2ヶ月間を過ごす」

というのが大きな目的となっていた。
気を付けるというレベルではなく、
常に警戒心MAXの状態。
どんなチャレンジなんだ。

 

1部屋で3人づつが向かい合って座る
寝台列車に乗った時も、なぜか一晩中、
1時間おきに警察が乗客の顔を
懐中電灯で照らし、
なにかを確認していて、
とにかく心配のあまり気付けば
朝まで一睡も出来なかった。
(これは財布の心配だけではないのだけど)

 

そのまま半目で新しい町について、
宿に直行して、
午前中から爆睡ということもあった。
その時もリュックを抱えながら寝た。

 

もちろん町を歩いている時も
常に誰かを警戒していた。
当たり前のようにそうしていたにしても、
気が休まることはほとんど無かったと思う。

 

警戒の甲斐もあって
財布を盗まれずに無事に帰国出来たのだが、
旅を100%楽しめたかと言うと
もちろんそんなことはない。

 

 

人生は旅だ。
生きていれば様々な不安がある。
日々の平穏を求めるあまりに、
その不安が行き過ぎてしまうことも
あるかもしれない。
形あるものを失わないようにして、
形の見えない、言葉にならないものを
失ってしまうかもしれない。

 

少なくとも
たいして中身の入っていなかった財布を、
あれほど頑なに守ろうとしていた
自分が情けない。
そして、宿がないぼくに
手を差し伸べてくれた人たちに、
改めて感謝したいと思った。

 


ブログ/渡邉知樹のぺぺぺ


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