ふじちゃん ー 鶴岡達悦

 

2000年の春、ぼくについて来て、
いっしょに住むことになった
富士子ちゃんは20歳になります。

 

夕方、薄暗い青い光の中、
友達と近所を歩いていて、
ニャーニャー鳴いている声が
聞こえると思ったら、
足元にふじちゃんが
からみついているのでした。

 

今では一番可愛がっているおやじも
最初は飼うのに反対していて、
以前に拾った猫を
知人に譲ったこともあったので、
ぼくと弟は机の一番下の
大きな引き出しにタオルを敷いて、
隠れて飼いだしました。

 

ちっちゃくて、何にでも
俊敏に反応していたふじちゃんは、
今では自分で水も飲めなくなってしまって、
口を指でこじ開けた隙間に
少しずつスポイトでたらして、
ちょっとずつ飲むことしかできません。

 

必要な水分を摂取することが
難しいとのお医者さんの判断で、
水分の皮下注射をしに
毎日病院に両親に連れられて通っています。

 

先日、車を運転していると、
道路の真ん中にちっちゃなケモノが
横たわっているのを
ヘッドライトがサッと照らしました。
後続車との車間が多少空いているのを
チラッと見て、強めにブレーキを踏み、
ハザードをすぐさまたきます。

 

バンパーを越えて車の下に
少し入ってしまったので、
少しバックします。
後続車がクラクションを鳴らします。
後ろのドライバーに
謝るジェスチャーをしつつ
足早に運転席からおりて確認すると、
小さな血の池の中に、子狸がいました。
苦しそうに痙攣しています。
傷口は見えません。

 

首根っこを掴むと、柔らかくしなやかな
毛皮のあたたかさが伝わります。
小走りで路肩の草むらにそっと横たえ、
運転席に戻ろうとすると、
後ろのドライバーが
何事かと声をかけてきました。

「轢いちゃった?」

「いえ、轢いてはいないです。
轢かれていたのをそこによけました」

「死んでた?」

「まだ死んではいないけど
だめだと思います」

それだけの会話をして発進しました。
後ろには車の列が長くなりつつありました。

 

うちのふじちゃんは
狸みたいな毛並みのさび猫です。
あの子狸はあるいは
ふじちゃんだったかもしれないと、
考えてしまいます。

 

実家の猫は自分でちゃんと
埋葬したいと思っています。

 

2013年父親による撮影

 


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