グレイプス・コンプレックス ー 青羊(けもの)

 

今年の6月ぐらいに母に電話で

「今年は葡萄を送って欲しい」

とお願いした。

 

ここ数年、夏になると
母は葡萄畑でバイトをしている。
だから葡萄を送ってくれたことが
何度かあった。

 

それなのに私は、送らないで欲しいと
無愛想な返事を繰り返していた。
葡萄を送られても
そんなに多くの量は食べられないし、
小さい冷蔵庫を占拠されては困る、
という理由だった。

 

今年は送って欲しいという私に、
電話口の母はとても嬉しそうで、
送る側なのにそんなに喜ぶのかと
驚いてしまった。

 

私の変化の要因は2つ思い当たる。
コロナ禍で5月にスーパーで
葡萄が安く売っていて、
試しに買ったら美味しさに気づき
ハマってしまった事。
昨年の秋、下北沢の本屋B&Bの
コーヒーブレンドに添える
“ 葡萄の詩 ” を書いたのをきっかけに、
葡萄を身近に感じるようになった事。

 

母には葡萄畑の写真を
送って欲しいとも頼んでいた。
そしたら、成長していく葡萄の写真が
定期的にメールで送られてきた。

 

初めは黄緑色の線香花火のような
形だったものが、次第に大きくなり、
ルビー色に染まっていく。
畑には燕の巣ができたり、
摘果した葡萄がハート型だったり、
様々な変化が訪れる。

 

高齢者の母や、
母よりも高齢者の女性たちが、
顔にひたすら汗をかきながら、
葡萄畑を見上げて摘果の毎日を過ごす。
葡萄の実どうしで
押しつぶしてしまうのを避けるために。

 

9月5日の夜、母から葡萄が届いた。
ミニトマトほどのサイズ、
一粒を口にすると、
脳の奥で突然強いライトが
点灯したような感覚になった。
それほどの甘さだった。

 

暇さえあれば冷蔵庫から
葡萄を取り出しては食べ、
一週間もしないうちに
4房も食べ切ってしまった。

 

今年は表向きな音楽の活動を
していないこともあって、
葡萄のはっきりと成長していく様に
憧れのようなものも感じた。
秋は、ルビー、葡萄色。
ルビーチョコレートも
食べたいなと思っている。

 

 


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