これは旅だったのだ ー 田本あゆみ

 

ワン・ビン監督の『死霊魂』という
ドキュメンタリー映画をみました。

 

1950年代後半の中国で
反体制の疑惑で収容所に送られ、
そこから生き延びて出てきた人々を
取材したものでした。
上映時間は8時間26分。
満を持しておにぎりと水筒を持ち、
ネックピローを買い求めてから
向かいました。

 

自宅の椅子やソファに腰をかけて、
ときにはベッドに横になったまま
インタビューは行われます。
ちょうど話者と対峙したかっこうで
静止したカメラが回ります。
監督からの問いかけはほんのわずかです。

 

わたしの眼前には
おじいさんおばあさんたちが現れて
当時のことを話し去っていきます。
上等でないセーター、
お茶の入っているカップ、壁にかかる書画、
掛けカバーの柄に目を移します。
家財道具、生活風景、
人々はそれぞれに個性がありますが、
一様にくたびれています。

 

もう忘れてしまった、話したくないという
投げやりな言葉にも
カメラのレンズは動揺せず、
ただじっと黙って相手が記憶を探って
話しだすのを待ちます。

 

目のなかが見える距離で
おじいさんは話し続けます。
中国北部の砂漠地帯、収容所跡には
人骨が散らばっています。

 

家から歩いて10分のところに
ミニシアターがあり、
そこではドキュメンタリー作品が
よく上映されています。

 

会員価格で1100円(死霊魂は3900円)。
ジャンルを選ばず予備知識もなく、
気の向くままにみにいきます。

 

映像のなかでは、
すでに亡くなっているひとや
遠く離れたところに住むひとが話し
動き回っていて、それらをみるたび
彼らが実在していた(いる)ことに
いちいちショックを受けてしまいます。

 

映画館のふかふかの座席に身を沈めながら、
電車の車窓から
景色が流れるのをみるように
たんたんと静かに、
中国で流れていた時間の一部分を
垣間見ているようでした。

 

なぜだか学生のときに
青春18きっぷを持って
遠くまで行ったときのことを
思い出しました。

 


2020年12月03日 | Posted in 余談Lab, ひらめきのタネ, 校正者 田本 あゆみ | | No Comments » 

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