信じられる言葉をー『クラウディアからの手紙』から ー nashinoki

 

先月鳥取のある場所で、
『クラウディアからの手紙』という
1998年に鳥取のテレビ局が制作した
ドキュメンタリー映像を
見る機会がありました。

 

主人公は、
第二次世界大戦に従軍し
戦後スパイの濡れ衣を着せられて
シベリアの強制収容所に送られ、
本土に戻ることが叶わず
長くロシアに暮らすことになった
蜂屋彌三郎さん。

 

彼は異国の地で暮らす中で
クラウディアという女性に出会い、
生活を共にするようになります。
彼女もまた、家族に恵まれず、
無実の罪で強制収容所に送られるという、
厳しい半生を送ってきた人でした。

 

しかし蜂屋さんには、
戦地に赴く前、
日本に残してきた妻子がいました。
彼は長らく
家族は死んだものと思っていたのですが、
妻と娘が鳥取で生きていることを知り、
数十年暮らしたロシアの地を去り、
日本に帰国することを決めます。

 

一方クラウディアさんは
どうなったのでしょう。
気になりながら見ていると、
蜂屋さんに日本に帰るよう勧めたのは、
彼女だったことがわかります。
クラウディアさんは最初
彼に家族がいることを知らなかったけれど、
それを知った以上、
これまでと同じように
生活を続けていくことはできない。

 

彼女は映像の中でこう言います。

「自分の幸せを、誰かの不幸の上に
築くことはできない」

その言葉を聞いて、
僕はなぜだか
とても救われる気がしました。

 

蜂屋さんとの日々は、
彼女にとっても
やっと掴んだ
幸せだったのではないでしょうか。
にもかかわらず
その生活を手放す選択をする。
それはどれほどの苦しみだったでしょう。

 

けれど映像を見ているかぎり、
彼女は淡々とその後の日々を生きています。
激しい悲哀や断念は
そこには感じられないのが不思議です。

 

それが当然のことのように。
そのなんでもなさ、
静けさが、
僕にはむしろ
予想を超える過剰さを感じさせ、
それでもその言葉は、
こちらが信じるかどうかに関係なく
厳然としてそこにありました。

 

人間はこのようにもありうる。
そのことを
クラウディアの言葉は、
信じさせてくれます。

 

MAGAZINE 「TOTTO


2020年12月14日 | Posted in 余談Lab, ひらめきのタネ, 文を書く人 nashinoki | | No Comments » 

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