喫茶店のおじさん ー 渡邉知樹

 

よく行く喫茶店に、よくいるおじさん。
いつも通り、席に着く前から

「今日はついに600人だってよ」

とマスターに話しかける。

「へぇ、あ、東京の感染者か、600人かぁ」

なんて会話が始まる。

 

最近はもっぱらコロナの話だけど、
その前は主に政治の話。
マテーラフレイバーだのサトノアーサーだの
聞き慣れないカタカナを連呼してる時は
競馬の重賞の前。
野球はそこまで好きじゃないみたい。

 

昔はもっといろんなところで
こういう会話を聞いた気がするけど、
最近はめっきり少なくなった。
聞きたいわけでもなく、
自然と聞こえてくる会話。

 

 

世界にはいろんな人がいる。
ということはきっとみんな理解している。
けれどもそのいろいろな人たちと
自分がどのような関係を築いていくか、
ということに関しては、
実際に関わってみないと
計れないこともある。
少なくとも当たり前に、
想像の域を越えない。

「こういう人がこうしたら自分はこうする」

とかいった想像は、
大概実際には想像より
あっけらかんとしていたり、
もしくはものすごく複雑だったりする。

 

色んな人がいる、ということは
知識で分かっていても、
それはただの知識でしかない。
テレビに映る
「貧しい難民」の子供の瞳を見て、
可愛そうだと思うかもしれない。
けれど、実際にその子供に
自分の瞳が見られた時にも、
同じことを思うだろうか。

 

わざわざ友達を集めて
ディスカッションするようなことではなく、
SNSで誰がどんな思いで書いたか
分からないような文章でもなく、
日常の中で、当たり前のように
喫茶店でコーヒーを飲みながら、
他人の会話が聞こえてくるということが
どれだけ尊いことか。
コロナ禍ではなおさらだ。

 

時代がどれだけ移り変わっても、
いろいろな人がいるという事実は
変わらない。
そしてその事実は、
いつまでも人類の未来への
希望になるだろう。

 

いつも大声で何気ない会話をする
常連のおじさんに敬意をはらいつつ、
自分もそんなおじさんになりたいと
思いながら、今日もコーヒーを一杯。

 


ブログ/渡邉知樹のぺぺぺ


2021年01月12日 | Posted in 余談Lab, ひらめきのタネ, 絵本作家 渡邉 知樹 | | No Comments » 

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