本がもっと好きになる本 ー 土屋裕一

 

ロンドンのほぼ中心に位置する
チャリング・クロスは、
かつて古書店が建ち並ぶ街でした。

 

その84番地にあった
古書店・マークス社と、
ニューヨークに暮らす作家の
ヘレーン・ハンフの手紙のやりとりが、
この本『チャリング・クロス街84番地』
です。

 

20年にもおよぶ手紙での交流は、
ドラマではなく、
実際にあった出来事です。

欲しい本をニューヨークでは
どうしても見つけられずにいたヘレーンは、
当時ロンドンでも
指折りの古書店だったマークス社へ、
本の探究依頼の手紙を送りす。
1949年10月に投函された
この一通の手紙からすべてが始まりました。

 

文面に表れる小気味よい態度と、
ユーモアたっぷりの
へレーンの言葉に対して、丁寧で、
実にやさしい対応をするマークス社の
フランク・ドエル(とスタッフたち)。
へレーンの人間性や好みがわかるにつれて、
逆に、マークス社から、

「こんな本が入荷しましたけどいかが?」

と提案されるほど、
関係が育まれていきます。

探し求めていた本を受け取った
ヘレーンならではの感情が、
本の魅力とともに伝わってくる一節を
ご紹介します。

 

本を一日中机の上において、
ときどきタイプライターを打つのは止めては手を伸ばし、
さわってみたりしています。
初版本だからというのではなく、
こんなに美しい本はいまだかつて見たことがないからです。

(略)

つやつやした革表紙といい、金箔押しの文字、
美しい活字といい、これはイギリスの田園地方にある邸宅の、
松材の腰板を張った書庫に収められてしかるべきものです。

(略)

中古のベッド兼用のソファーの上でなんか読まれたくはない、
というような顔をしています。

 

すべての段取りにおいて、
現代とは比べものにならないほど
時間がかかる時代。
意中の本が手元に届く喜びは
何事にも代えられないでしょう。
副題『書物を愛する人のための本』にも
うなずけますね。

 

『チャリング・クロス街84番地』は
これまで、何度か形を変えて
出版されました。
まずは単行本。
表紙を新しくして文庫本。
また表紙を新しくして文庫本。
そして4月には、
またまた表紙を一新した文庫本が
発売される予定です。
今回は「その後」のお話も収録されるとか。

 

この本の存在そのものが
「読む」だけではない本のおもしろさを
教えてくれている気がします。

 


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