サヨナラだけが人生だ ー yuri

 

春は、
毎年必ずやってくるけれど、
何回やっても、
私は春を上手にできない。

 

花粉症はまだ発症をしていないので、
粘膜系は穏やかに過ごせてはいるけれど、
穏やかじゃないことが、
この季節にはたくさんある。

 

お店を開いて9年目となれば、
常連さん、と呼ばれるような、
ありがたいことによく来てくださるお客様、
という方がいる。
どこに住んでいるのかも、仕事も、
名前すら知らない人もたくさんいる。

 

頻度は人によるけれど、
一緒にたくさんの時間を
重ねてきたからこそ、
わかってしまうことがある。
昨日と今日が、違う日だということ。

 

元気そうなあの子が
今日も元気にやってきたけれど、
なんともいつもとは違う感じ。

 

いつもふいにやってくるのに、

「今日行ってもいい?」

と連絡をくれてから来た日のこと。
会話の途中の手の仕草。
笑顔の隅のまばたき。
コーヒーを飲んだ後のちいさなため息。

 

そういう人たちが、
そのあとに、はじめる話がある。

 

そうして私は、
たくさんの人の背中を
この場所から見送ってきた。
実家に戻ったり、転勤や、移住、結婚。
引っ越しの理由は
みんなそれぞれさまざまだけれど。

 

今年もまた春が来て、
また何人かと挨拶をした。
今年の別れは、春というよりは
世界情勢のようだったけど、
どんな世界にも桜は咲く。
門出の背景に桜とは
なんと用意周到なことだろうか。

 

「あなたの人生を心から応援している」

ちゃんとそう伝えたつもりだったけど、
何回やっても、上手にできない。

 

あなたのいない日々は、
やっぱりちょっと、さみしい。
でも、元気かな、と思える人がいるのは、
幸せなことだなと、桜を見上げて、思う。

 

注:タイトルは『勧酒』という漢詩の一節、井伏鱒二による名訳。

 


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