人の心に存在する静けさと激しさ /「ある船頭の話」 ー 中村克子

 

前回の映画「日の名残り」。

 

主人公スティーブンスは、
執事の仕事に全てを捧げている。
そのため、一緒に働いていた女性
ケントンに好意を持ちながらも、
自分の気持ちを表に出さない…。
そんな二人の関係性も見どころだ。
この映画を初めて観たのは
20代の頃だったと思うが、
このちょっと歯がゆい関係が大人だな!
と思ったのを覚えている。

 

大場 綾さんが言っていたように、
スティーブンスは
変わりつつある時代の中で、
それに合わせていくのか、
いかないのか戸惑い、悩んでいる。
執事として長年働いてきた
プライドもあるからなおさらだ。

 

日本映画「ある船頭の話」
(オダギリジョー脚本・監督作品)でも、
時代の流れの中で
取り残されていくのではないかと
不安を抱く船頭トイチの姿が描かれている。

 

物語の時代背景ははっきりとわからないが、
明治時代の後半あたり。
トイチは長年、山奥の村と町を結ぶ川の
渡しの仕事をしている。

 

毎日、村から町へ、また町から村へと
お客を舟に乗せて黙々と漕ぐ。
その稼いだわずかなお金で、
川辺の掘っ建て小屋で
慎ましく暮らしている。
多分、トイチはこの生活が
気に入っているのだと思う。

 

ただ、川に大規模な橋が建設中なのが
気がかりなところ。
橋が完成すれば、
村や町に住む人にとっては便利になるが、
トイチにとっては仕事がなくなってしまう。
不安や焦りがあるものの、
どうすることもできない。
もしかしたら、彼の中には
あきらめのような気持ちが
あるのかもしれない。

 

物語の中盤までは、
風光明媚な山間の景色が映し出され、
ひたすら舟を漕ぎ、
静かな生活を送る船頭の姿が描かれている。

 

このまま何事もなく
終わるはずがないと思っていると…。
物語の後半では、
トイチの生活を一変するような
出来事が起こる。

 

川から流されてきた少女をトイチが発見し、
看病することに。
少女は何か大きな問題を抱えて
殻に閉じこもっている様子だが、
次第にトイチに打ち解けていく。

 

物語の前半と後半では、
静かな川の流れが激しくなっていくように、
トイチの気持ちに変化があらわれる。

 

前半では受け身的で、
自分の気持ちを表に出さない。
反対に後半では、
目の前で起こった出来事に対して
自分の意志を持って行動する。
自分を必要としてくれる人のために、
命がけで行動する凄まじさを感じた。
これは少女のためでもあるけれど、
トイチ自身のためでもある。

 

この映画は、
人の心に存在する静けさと激しさ、
両方を表現した作品だと思う。

 

 

「青と夜ノ空」web


2021年04月29日 | Posted in 余談Lab, 映画に学ぶ, 中村克子 | | No Comments » 

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