最初から汚れていたわけではない/「ペパーミント・キャンディー」 ー 大場 綾

 

ある船頭の話」の
主人公トイチ役、柄本明。
OUT ~妻たちの犯罪」という
テレビドラマで初めて役者として認識した。

 

主人公を執拗に追いかける人殺し役だった。
彼の出番のときだけ
画面にどす黒い緊張感が漲っていて、
本人もヤバいのではとちょっと思った。

 

それもあって、
トイチが理不尽な目に遭うたびに、
ついにキレるか?と身構えた。

 

だがトイチは流れてきた少女を、
橋の人夫たちの侮辱を、
変わってゆく時代を、
静かに受け入れていた。

 

猛獣のような荒々しさを
内に潜ませているらしき描写はあった。
克子さんの言うとおり、
静かさと激しさを
どちらも持っているのだろう。
まるで川だ。
川のような男の話。

 

韓国のイ・チャンドン監督の作品も、
川が強く印象に残るものが多い。
川で事件が起きる。
川の上を詩が流れる。

 

「ペパーミント・キャンディー」は
同じ川岸のシーンで始まり、終わる。
その間に20年の時が横たわっている

 

数人の中年男女が集まって
ピクニックをしている冒頭。
そのうちの一人、
キム・ヨンホが命を絶つ。
これが現在。

 

映画はそこから、
20年前の川岸に向けて、
数年おきにヨンホの人生を遡っていく。
時系列逆回転映画なのだ。

 

クリストファー・ノーラン監督の
「メメント」が嚆矢か。
ギャスパー・ノエの「アレックス」もある。
なぜか三本とも、いわゆるトラウマ映画だ。

 

中年のヨンホは共感する余地が皆無の
驚くべきクソ野郎だ。

「なんだこいつはー  !!」

と歯ぎしりしてしまう。
それに自殺するようにはとても見えない。
「!!」と同じぐらい「??」が増えていく。

 

だが時間が戻るたび、
汚れというには軽すぎる、
避けようがなく致命的な
数々の疵が立ち上がる。

 

若い頃のうつくしい時間で
映画が終わったあと、
しばらく呆然としていた。
これが普通の順番だったら、
こんなに心を抉られなかった気がする。

 

韓国の現代史でもあり、
以前紹介した「タクシー運転手」とも
つながっている。
元気のあるときにぜひ観てほしい。

 


大場 綾ブログ「kusamura.com」


2021年05月15日 | Posted in 余談Lab, 映画に学ぶ, 大場綾 | | No Comments » 

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