帰るところ / 「アンダーグラウンド」 ー 大場 綾

 

デッドマン」。
主人公のウィリアム・ブレイクの顔。

 

最初の頃は不安やおそれなどに
覆われていたのが、
ノーボディとの旅の間に
雑なものが取り払われていく。
崇高にさえ見えてきた。

 

最後はそんな彼の横たわったボートが
ゆっくりと沖へ漂い出て行く。
上に広がる視界360度の空。
流れて行く雲。
なんだか自分も成仏したみたいな
気持ちになった。

 

そういえば克子さんが前に紹介してくれた
ある船頭の話」も、
川を船でくだって行くシーンで終わった。

 

スティーブ・マックイーンの脱獄映画
「パピヨン」は最後には海を漂う。
「平成狸合戦ぽんぽこ」にも
宝船に乗った狸たちが
空に去って行くシーンがある。
どれも、いまいるところから
脱出するための船出。

 

エミール・クストリッツァの
「アンダーグラウンド」(※)の最後も
船出のシーンだ。
でも乗り物は船じゃなくて、地面。
祭りに興じるたくさんの人々を乗せたまま、
地面が陸と切り離されて漂って行くのだ。

 

観た時、口がポカーンと開いた。
179分の物語の中で死んでいった
たくさんの人々がよみがえって、
お祭り騒ぎを続けたまま遠ざかって行く。
それまでの嵐のような人々と展開にも
口が開いていたけど、
最後の最後で完璧にやられた。

 

「アンダーグラウンド」は、
ある男が親友やその仲間たちを
壮大な防空壕のような
地下空間に住まわせて、
第二次大戦がまだ続いていると
何十年も騙し続けた話。

 

監督の故郷ユーゴスラヴィアが
モチーフになっている。
撮った時点でもう存在しない国。
漂う小さな島だけが、あの人たちの
いられる場所なのだろうかと思った。

 

外国に旅行に出ると
いつも帰るときのことが頭にあって、
それは鬱陶しいのと同時に安心でもある。
帰る家が、国が、ないということは
どういうことなんだろう、と
たまに考える。
自分がそうなったときのことを
想像することは、いろいろな意味で
大事なのではないだろうか。

 

※8月26日木曜日の昼下がりに、NHKのBS2で放送されます!

 

 


大場 綾ブログ「kusamura.com」


2021年08月14日 | Posted in 余談Lab, 大場綾 | | No Comments » 

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