ワクチン初体験記 ー 田本あゆみ

 

10月中程のある午後、
最寄駅に隣接したビジネスビルを出ると
駅からやってくる人の流れと、
すきっと晴れた空に薄い雲が浮かぶのが
目に入ってきました。

「今の自分は以前のわたしとは違う。
スーパーあゆみ人になった」

悟空たちは感情爆発で
スーパーサイヤ人になりますが、
スーパーあゆみ人は科学技術の力で
覚醒しました。
ワクチンによって、丸腰で戦っていた手に
盾が与えられた気分でした。

 

今年の春先から周囲で
コロナワクチンの話題が
よく上るようになりました。
一つの共通事案を発端にみな饒舌になり、
年齢層の高い仕事場なだけに
早いうちから体験談や副反応のサンプルが
着々と集まっていきました。
これがいざ自分の番となったとき
心の準備に役立ちました。

 

わたしの住むK市では、
30代のウェブ予約が始まったのが
8月下旬でした。

 

人気のチケット争奪戦のごとく
俊敏さで予定枠をもぎ取っていった
先達の教えを軽くみて

「やっぱり近所がいい」

と希望の条件をはめていると
瞬く間にサイトは締め切りました。
その翌月も似たような有様でした。

 

そんななか家族からは
真剣味が足りないと言われ、
同胞だと思っていたのんびり系の友人が
頑張って予約したことを聞きつけました。

 

自分の無能さに苛まれつつ10月に入り

「ワクチンもういらない。
けど打ってみたい」

とぶつぶつ言っていると
〈K市2会場 予約なし接種〉
というニュースが目に留まりました。
この頃になるとサイトの〇印も
簡単に消えることはありませんでした。

 

当日は清潔でゆったりとした
下着と服を身に着けて向かいました。
接種会場の入口から
蛍光イエローのゼッケン姿に誘導され、
システマチックに
床につけられたラインに沿って
番号がふられたブースに行儀良く進むと、
痛みもなくあっという間に終わりました。
打たれたとき体内がジワ〜となりました。

 

椅子に座ってじっとしている15分間、
地下フロアの待機場所に置かれた
モニターからはK市湾岸部開発の
モノクロームの記録映像が流れていました。

 


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