運転手さんと3つのルール ー アグニュー 恭子

 

昨年11月に、埼玉文学賞の受賞を機に、
3年半ぶりに日本に一時帰国しました。

 

Withコロナの規則や
行動様式にのっとりながらの帰国は
苦労もありましたが、
イギリスやアイルランドと比べて
ずっと感染者数も少ない上、
システムも整いルール遵守も行き届いた
日本の社会の中では、
安心して滞在を楽しむことができました。

 

 

ところが、ひとたび日本を離れてみると。
ヒースロー空港の
国内・近距離線ターミナルは、
人でごった返して、まさにカオス。
ダブリンも同様で、
空港から乗ったバスは満杯、
咳やくしゃみをして鼻をすすっているのに
マスクをしていない人もいます。

 

激しい落差を目の当たりにして
早速日本に帰りたくなっていたとき、
バスの運転手が、
乗客の側を向いてすっくりと立って、
みんなに聞こえるよう話し始めました。
しっかり、マスクを着用しています。

 

「このバスは満員だから、3つのことを必ず守ってもらう。まず、マスクをつけること。これは自分のためじゃない、周囲の人間を守るためにするんだからな、乗車中はずっとつけて、外すなよ」

 

「次に、車内では酒を飲まないこと。3つ目、電話を使うときは、大声で話さないこと。時々いるんだよ、自分の素晴らしい生活のことを、車内のみんなに聞こえるように話す奴が。聞きたくねえから、個人のことは個人の範囲に留めろよ。わかったな!」

 

有無を言わせない口調で、
けれど親しみの湧く土地の訛りで、
最後は笑いも取りつつ
運転手さんがそう言うと、
乗客はみんなうんうんと頷き、
マスクをつけました。

 

日本のようにシステムや
マニュアルが整っていない
イギリスやアイルランドでは、
自分の意志や判断に従って言葉を放ち、
仕事をする人の姿を、
より頻繁に見ることがあります。

 

そういう人に接すると
清々しい気持ちになって、
この土地がやっぱり好きだと思います。

 

 

2021年度 埼玉文学賞受賞作品|埼玉新聞 (saitama-np.co.jp)

 


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