落ちて落とされ ー 浅野知子
アタイは流しの仲居 。
お姐さんにいけずをされても、
持ち前のM気質と、
心のシーソーゲームを思案し、
ひたむきだったアタイが、
その年は体調不良が追い打ちとなり、
さすがに参っちまった。
当時の日記によると
「よそ者」には手厳しい現場らしく、
最初は諸先輩方との攻防を
おもしろおかしく書いてますが、
体調を崩しはじめると
“ 歯が痛くて、お客の残りものにも
心がときめかない ”と。
人の眼を盗んで
口一杯に残飯を頬張ってた私が…!?
自画絵も顔に縦線が入り白目で、
泡を吹いて鼻水をしたたらせています。
この状況下のいけずがまた身にこたえ、
日付に添えられたタイトルも、
リベンジ、疲労感、虫歯が…と、
日記は地獄絵巻の様相でした。
そんな中、
明らかに毛色の違うタイトルがありました。
「イイ オトコ オアシス的存在」
その内容は揚げ物担当のおじいさんに
“ ハートを打ち抜かれた ”とのこと。
食事処へ決められた時間に、
ヨロヨロと鼻歌まじりに現れる彼。
こちらがどんなに忙しくても
関係ない様子で、
ボソボソと独り言のような
冗談を言ってくる。
顎の無精髭についた食べカスもご愛嬌。
…なんだこの味わい深さは…
一転してときめきに溢れた
日記になっていました。
彼のキャラクター性はもちろんですが、
諸先輩方の冷たい向かい風が
吹きすさぶ中で、
マイペースで敵意がないというだけで、
温かい存在だったのかもしれません。
体調不良に心まで喰われていた状況からの
巻き返し、 精気を取り戻しました。
「愛とは偉大なり」
とはこのことですよね!? イエスさん!
愛を知った流しの仲居。in北陸でした。
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